産科婦人科の病気1.更年期障害
更年期障害の原因
女性は40才を過ぎる頃から、卵巣の働きが徐々に弱くなり女性ホルモンの一つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌量が少しずつ減り始めます。45才前後にはさらにエストロゲン量は急激に減少します。この頃が更年期の始まりで、月経の日数や周期が乱れ始め、やがて閉経(月経がなくなる)を迎えます。更年期特有の体の不調は、エストロゲンの低下が原因です。
更年期障害の症状
顔のほてり、異常な発汗、頭痛、めまい、肩こり、腰痛、イライラ、不眠などのいろいろな症状が現れます。更年期障害の多くは閉経の前後約5年の時期にあらわれますが、その症状の重さ、期間には個人差があります。その症状を治すためには、少なくなったエストロゲンを補ってやれば良いわけです。これをホルモン補充療法といいます。更年期障害の特徴はエストロゲンを使用することですぐにこれらの症状が改善することです。
更年期障害の自己診断
症状 | 症状の程度 | 点数 | |||
強 | 中 | 弱 | 無 | ||
1.顔がほてる | 10 | 6 | 3 | 0 | |
2.汗をかきやすい | 10 | 6 | 3 | 0 | |
3.腰や手足が冷える | 14 | 9 | 5 | 0 | |
4.息切れ、動悸がする | 12 | 8 | 4 | 0 | |
5.寝つきが悪く、眠りが浅い | 14 | 9 | 5 | 0 | |
6.怒りやすく、すぐイライラする | 12 | 8 | 4 | 0 | |
7.くよくよしたり、ゆううつになる | 7 | 5 | 3 | 0 | |
8.頭痛、めまい、吐き気がよくある | 7 | 5 | 3 | 0 | |
9.疲れやすい | 7 | 5 | 3 | 0 | |
10.肩こり、腰痛、手足の痛みがある | 7 | 5 | 3 | 0 | |
合計点 |
この合計点が51以上の場合、産婦人科でホルモン補充療法を受けて下さい。
ホルモン補充療法
ホルモン補充療法の基本は、エストロゲン(卵胞ホルモン)の連日服用、間欠的注射(月1~2回)、貼り薬(2日毎に貼り替え)のいずれかが選択されます。ホルモン治療を続ける期間は特に決まりはありません。
連日かつ長期間エストロゲンの投与を続けると、不正子宮出血が起こることがあります。また長期間使用することで 子宮体癌の発生率が高くなるとともいわれています。その予防のため、時々エストロゲンを休薬したり、プロゲステロン(黄体ホルモン)を併用する場合もあります。
基本的には、更年期障害の症状が無ければ あえてホルモン治療をする必要はありませんが、無症状でもホルモン補充療法をある期間続けることで 骨粗鬆症や動脈硬化の原因となる高脂血症を予防できるといわれています。
ホルモン補充療法の功罪について
平成14年7月の新聞報道で米国NIH(National Institutes of Health)は心疾患予防効果と乳癌増加の有無を検討することを主目的として、更年期以後の女性(50~79歳)に対してエストロゲンとプロゲステロン(2種の卵巣ホルモン)併用によるHRT(ホルモン補充療法)の長期投与(平均5.2年)の追跡調査を行って来たが、骨折や大腸癌が有意に減少した一方、心血管疾患、脳卒中、乳癌が有意に増加したのでその治験を中止するという発表がありました。
治験結果とりわけ乳癌についての詳細は、エストロゲンとプロゲステロン併用投与群における乳癌の発生率が非投与群に比べて26%増加したということでしたが、その実数は1万人の女性1年あたりの発生率が30人から38人とわずか8人増えただけでした。こうした疫学調査は既に以前から行われており、HRTを長期間行うことによって20~40%程度に相対危険率が増すことはわかっていました。わが国における統計では乳癌の罹患率は50歳以上で1万人に7~8人と米国の約4分の1です。かりに26%増えても1万人に2人増えるだけです。
これを受けて日本産婦人科医会、日本産科婦人科学会が協議し、HRTにおけるエストロゲンとプロゲステロン同時併用に関する指針を提示しました。
- 現在長期的な(4~5年以上)同時併用療法を行っている患者さんでは、直ちに併用療法を中止する必要はありませんが、継続する場合は乳癌、心血管疾患、脳卒中等に十分注意し、検診を定期的に受けさせ、これらの早期発見に努めます。
- 長期にわたる併用療法をこれから開始する場合は、併用療法のリスクとベネフィットについて患者さんとよく相談し、個々の患者さんにあった選択をすべきです。ただし冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)の予防を目的として併用療法を開始すべきではありません。また、大腸癌の予防を目的として併用療法を行う妥当性も現在のところありません。
- 更年期障害(ほてり、のぼせ、発汗、膣乾燥等)の治療のために短期間併用療法を行うことは、通常ベネフィットがリスクを上回ると考えられ、併用療法を行ってよいと考えます。ただし、この場合においてもリスクを考慮して患者さんと相談の上決定します。
まとめ
1.ホルモン補充療法の種類
1)エストロゲン(E)単独療法
2)エストロゲン(E)+プロゲステロン(P)併用療法 の2種類がある。
2.効果
1)更年期症状の改善
2)高脂血症・骨粗鬆症(骨折)の予防
3.ベネフィット(副効用)
・大腸癌、卵巣癌の予防
4.リスク(危険性)
- 子宮内膜癌
①E単独療法:相対危険率(発生率)が増す。
・長期(5年以上)投与でさらに危険度は高くなる。
※治療中に発生した内膜癌は早期に発見され、治癒率が高い。
②E+P併用療法は子宮内膜癌の相対危険度(発生率)下げる。 - 乳癌
① E単独療法とE+P併用療法のどちらも相対危険度を25~40%増す。
② E単独とE+P併用に差はない。 - 心血管疾患
E+P併用療法で相対危険度が増す。
5.リスクを回避するために
・年1回は子宮内膜癌、乳癌検診を行う。
・早期に発見されれば治癒率は高い。