よい赤ちゃんを産むために・・・産婦人科医から7つのアドバイス
目次
- 分娩予定日と妊娠週数の計算法
- 妊娠前中期に起こりやすい異常と対処
- 妊娠初期に胎児に影響及ぼす諸因子(薬物、感染症、放射線被曝など)
- 高齢出産とダウン症候群
- 妊娠中の生活(運動仕事、衣服、運動、旅行、栄養など)
- 妊娠後期の異常と対処(早産、骨盤位、妊娠中毒症など)
- 元気な赤ちゃんを産むためのアドバイス
1.分娩予定日と妊娠週数の計算法
- 最終月経のはじめの日から280日(40週)目を分娩予定日とします。
- 妊娠週数とは最終月経から何週何日目かであらわします。
- 月経が28日周期で規則的に来る人は2週目(14日目)が排卵日です。
- 基礎体温表で娠初期より超音波画像で赤ちゃんの大きさを測ると比較的正確な妊娠週数が計算できます。
- 赤ちゃんの座高(CRL)----- 20mm = 妊娠9週0日
- 〃 頭の横幅(BPD)--- 30mm = 妊娠15週0日
2.妊娠前中期に起こりやすい異常と対処
1.つわり
つわりは妊婦の80%に起こる症状で、妊娠6週ころより始まり、4~8週間ほど続きます。
- ・持続期間や重症度には個人差があり、同じ人でもそれぞれの妊娠で程度に差があります。
- ・つわりの対処-つわりは朝起きた時など胃の中が空の時にひどくなります。
- ・食べられる時に、食べられるものを好きなだけ食べて下さい。サッパリしたもの、すっぱいもの、つめたいもの、においの少ないもが食べやすいようです。
- ・吐いた後は口の中を水でゆすいぐとスッキリします。水分の補給は大切ですので、出来るだけ水ものを飲むように心がけて下さい。吐く回数が多くなったら早めに外来受診して下さい。
- ・点滴(500ml)をするとずいぶん楽になります。
2.出血
妊娠初期の出血は流産の兆候ですが、出血の量が少なく、腹痛も軽ければまず安静にすることで状態は落ち着きます。診療時間内であれば、病院にすぐ診察に来て下さい。 時間外や休日の場合は病院へ電話をして出血の量、お腹の痛みなどの状態を報告して下さい。 必要に応じて診察や入院をお勧めします。深夜であれば、気を失うような大出血がない限り安静だけで様子を見て大丈夫です。
3.腹痛切迫早産
妊娠が進むと子宮が頻繁に収縮してそれを痛みとして感じることがあります。 お腹を自分でさわると一時的にドッジボールの様に硬く触れます。まず安静にしてそれでも治らない場合は外来受診して下さい。
その他に考えられる病気---虫垂炎、尿路結石、胆石症、急性腸炎、胃炎、胃潰瘍、卵巣腫瘍の茎捻転、常位胎盤早期剥離
3.妊娠初期に胎児に影響及ぼす諸因子(薬物、感染症、放射線被曝など)
妊娠初期(4週~18週)は赤ちゃんの各臓器の原型が作られる時期です。この時期に催奇形性のある薬を飲んだり、放射線の被曝、ある種の感染症にかかると赤ちゃんに奇形をおよぼす確率が高くなります。
a)薬:妊娠前より既に飲んでる薬があれば必ず報告して下さい。
また新たに薬を飲む場合も医師の相談を受けて下さい。
b)妊娠初期に注意を要する感染症
・風疹、トキソプラズマ症、サイトメガロウィルス症
・風邪を引いたり、熱が出た場合ははじめに産婦人科医療機関に受診して下さい。
・小鳥、猫、犬などを飼っている人(トキソプラズマ感染症)は相談 して下さい。
c)放射線被爆:妊娠初期のレントゲン検査は出来るだけさけた方が賢明です。
既にX線をあびた人、これから検査予定の人は一度相談して下さい。
4.高齢出産とダウン症候群について
・出産年齢が高くなるとダウン症候群などの染色体異常をもった赤ちゃんが 産まれる確率が高くなり、35歳以上をハイリスク群としています。
25歳:1/1000、35歳:1/300、40歳:約1/90
・心配な方は妊娠16~18週に羊水染色体検査を行うと染色体の異常の有無がかりますのでそれまでに医師に相談して下さい。
5.妊娠中の生活(運動、衣服、旅行など)
1.運動
妊婦にとって適度な運動とは、無理なく自然に行える範囲のものと言えるでしょう。
妊娠前の生活で日常的に行っていたものであれば、エアロビクス、水泳、テニスも可能です。
散歩や軽い体操は新たに日常生活として取り入れて良いでしょう。
妊娠の初期(4週~12週)は流産が起こりやすいので激しい動きのあるスポーツはひかえた方が良いかと思います。
現在マタニティースポーツとして水泳、エアロビクスがさかんに行われています。 これらは順調な妊娠経過をたどっている人に限られ、時期は安定期に入る16週~32週ぐらいが適当でしょう。 いずれにしてもはじめる前に医師の許可を得て下さい。
2.睡眠と休息
妊娠するといつになく眠くなります。中期以後は体重の増加もあり足腰に負担が加わるため疲れやすくなります。 そこで毎日十分な睡眠(8~10時間)を取るように心がけましょう。出来れば昼間のうちに1回は ゴロッと横になることもお勧めします。横になる時はシムスの体位(側臥位になり、上側の膝を前方の床につける)をとると子宮の血流が多くなるため赤ちゃんに良いと言われています。
3.仕事
妊娠の診断を受けたら、出来るだけ早く職場に報告しましょう。働く妊婦の負担を緩和するため、職場転換、就労時間の調整、通院休暇、産休、育児、休暇など上司・雇用主の方とよく相談して上手に利用しましょう。
4.外出
買い物などはあらかじめ買うもの決めておいて短時間すませましょう。 休みの日にご主人と公園、美術館などへ出かけることは気分転換にもなり好ましいことです。 外出の際にはゆっくりと休みながら行動するようにしましょう。
5.旅行
16~28週の間は、妊娠経過に異常がなければ、数泊の旅行も可能です。 ただし、車の旅行はきゅうくつで疲れ易いので2時間以内で行ける範囲が良いでしょう。 遠方の場合は汽車、飛行機を利用して下さい。いずれにしても必ず医師の許可を受けて下さい。
6.入浴
おふろは毎日入り、体の清潔を保ちましょう。長湯や熱い湯はさけましょう。
7.衣服
下着--冬は保温性、夏は吸湿性、通気性の良いものを選びましょう。 ブラジャーは1~2サイズ上のゆったりしたものが良いでしょう。 マタニティーウェア--16週以後から徐々にお腹が出てきます。 ウェストのゆったりした着やすい洋服を選んで買いましょう。 きついジーパンは12週くらいまでが限度です。
8.美容
妊娠するとシミやソバカスが目立ってきます。外出時には紫外線よけに薄化粧をしたり日傘、帽子などを用意しましょう。お産が近づいたら髪は短めにカットし、手入れのし易い髪形に整えましょう。指の爪の長い人はお産の前に必ず短く切って下さい。
9.夫婦生活
妊娠中の夫婦生活は妊娠経過が順調であれば特に制限はありませんが、出血があったり 流産、早産の心配のある場合はひかえめにして下さい。妊娠が進んでお腹が大きくなると体位に工夫をした方が良いでしょう。
妊娠初期(15週まで):体位は普通でかまいせんが流産しやすい時期ですのでややひかえめに。
妊娠中期(16週~27週):安定した時期ですがお腹が出てきますから体位に工夫をして下さい。
妊娠後期(28週以後):出来るだけ回数を少なく、無理のない程度にして下さい。
6.妊娠後期に起こりやすい異常と対処
1.早期産(早産)
妊娠22週~36週までの分娩を早期産といいます。各週の推定体重はおよそ以下のとおりです。
週数 | 24週 | 28週 | 32週 | 36週 |
750g | 1200g | 1700g | 2400g |
小さな赤ちゃんほど子宮の外では自力で生きていけません。そこで保育器に収容したり、点滴をしたり、人工呼吸器・種々のモニターをつけたりすることもあります。34週未満あるいは2000g未満の未熟児は新生児センター(日赤病院など)への転送が必要となります。
症状:子宮収縮感(下腹部緊満、陣痛様腹痛、腰痛)出血を伴うことはあまり多くありません。
対応:仕事・家事を中止し安静にして下さい。安静にしても治らない時・・・病院に連絡して指示に従って下さい。外来診察の時間帯であれば直ちに受診して下さい。
治療:子宮の収縮を止める薬を飲んでいただきます。内診にて子宮口がかなり開いている場合や内服薬で子宮の収縮が収まらない場合は入院が必要となります。時に点滴治療を行うこともあります.
2.妊娠高血圧症
a.原因:肥満症、高血圧症、腎臓病、高齢出産、多胎妊娠など原因の明らかな場合と原因不明で発生する場合(体質的)があります。
b.症状:1)浮腫---はじめは足、下腿にむくみ が出ます(指で押さえると痕がつく)。体重が異常に増え、尿の量が減る。
2)高血圧---最高血圧 140mm/Hg以上 最低血圧 90mm/Hg以上さらに血圧が高くなると頭痛、肩こり、めまいが起こる。
3)蛋白尿---尿検査で蛋白反応(+)
c.母体への影響:重症になると脳卒中、子癇(けいれん)、常位胎盤早期剥離が発生し、母体の生命にかかわる事態となります。
d.胎児への影響:胎盤の働きが悪くなり、未熟児(小さく弱い赤ちゃん)が生まれたり、お産の間に赤ちゃんが危険な状態(胎児仮死)になる可能性が高くなります。
e.予防:1)心と体の安静 2)カロリー制限、塩分・水分制限 肥りすぎないように
f.治療:軽症では自宅にて食事療法を行って下さい。中等症以上の場合は入院し、 安静、食事療法、薬物治療を行います。その後母体・胎児の状態に応じて必要なら、分娩誘発あるいは帝王切開を行います。
3.骨盤位
子宮の中で赤ちゃんの頭が上で臀部(おしり)が下にある場合を骨盤位(さかご)といいます。妊娠中期(28週未満)までは赤ちゃんは自由に子宮内で動 いていますが、後期(28週以後)に入ると動きが少なくなります。28週以後は外来診察で骨盤位と診断されると積極的に治すように努めます。医師が母体のお腹の上から外回転術を試み、治ることもありますが、不成功の場合は自宅での矯正体操の指導を受ける場合もあります。36週になっても治らない場合、 骨盤位のままの分娩は頭からの分娩に比べ、いくらか危険が伴うことがあるため、最近では多くは帝王切開を行われますが、経膣分娩も可能な場合もあります。 どちらにするかは、主治医とご本人と十分に話し合って方針を決めることになります。
7.元気な赤ちゃんを産むためのアドバイス
お産は十人十色であり、生まれる時期(予定日より何日ずれるか)、お産にかかる時間、生まれた時の赤ちゃんの大きさや状態はさまざまです。多くは自然の経過で無事お産は終了しますが、予想外の経過をとることもありますから楽観は許されません。
医師や助産婦は今までの多くの経験から母子にとって安全な方向にお産が進むようにお手伝いをさせていただきます。
もっとも大事なことはお産をするのはお母さん自身であるということです。
自分で産むんだという気構えに乏しい人は難産になる傾向があります。